制作の仕事をしていると、「ホームページ1本の納品に、思っていたよりずっと時間がかかってしまった」という経験は、誰しも一度はあるんじゃないかと思います。最近、自分の中でその原因についてあらためて整理する機会があったので、AIの話も絡めながら、考えたことを書いておこうと思います。
目次
「制作が遅い」と「案件が長引く」は、実はイコールじゃない
進行が長引いた案件を振り返ってみると、意外と「デザインや実装そのものに時間がかかった」わけではないケースの方が多いように思います。むしろ、デザイン自体は早い段階でほぼ形になっていて、その後の確認や素材待ちの期間が積み重なって、結果的に全体の期間が伸びている、という構造の方がずっと多い気がしています。
たとえば、こんな要素が後から次々に発生していくと、あっという間に数ヶ月単位で進行が伸びていきます。
- 掲載する原稿やテキストがなかなか揃わない
- 写真や素材の準備が進まない
- 追加の要望や新しい商品情報が、後から次々に出てくる
- 確認や返信そのものに、思った以上に時間がかかる
つまり、「制作スピードが遅い」んじゃなくて、「要件が確定するスピードが遅い」んですよね。ここを混同してしまうと、対策の方向性を間違えやすいなと感じています。「もっと早く作れば納期に間に合う」と考えて制作側だけが頑張っても、根本の原因が要件確定側にあるなら、あまり効果がないということになります。
自分も、あとから振り返ると「手が止まっていた期間」の方が長かった、みたいな案件に心当たりがあります。デザインそのものにかけた時間は、実は思ったより少なかったりするんですよね。
なぜ「要件が固まる前」に手を動かしはじめてしまうのか
とはいえ、要件が全部固まってから制作を始めればいい、というのは分かっていても、実務ではなかなかそうもいかない場面が多いと思います。
理由のひとつは、希望納期が先に提示されることが多いからです。「できれば1〜2ヶ月で」と言われると、まず手を動かして進んでいる感を出したくなる気持ちは、正直よく分かります。
ただ、ここで一旦立ち止まって、必要な素材や情報がどこまで揃っているかを確認せずに走り出してしまうと、あとから「これも必要でした」「あの内容も追加したいです」が次々に出てきて、結局デザインや構成に何度も手戻りが発生してしまいます。
もうひとつの理由は、要件を先に固める進め方そのものが、なんとなく「遅い」印象を与えてしまうことです。実際には逆で、要件が曖昧なまま進めるほうが最終的な着地は遅くなりやすいのですが、進行の初速だけを見るとヒアリングに時間をかけている方が「進んでいない」ように見えてしまう。
これは、実務でかなりよくある錯覚なんじゃないかと思っています。
「とりあえず手を動かした方が早そう」って感覚、自分にも覚えがあります。でも振り返ると、一番時間を溶かしていたのは、後から発生した要件のすり合わせだったりするんですよね。
AIによって「作る」が速くなるほど、この構造がむき出しになる
ここに、AIの存在を重ねて考えると、面白い(というか、少し怖い)ことに気づきます。
これまでは、デザインや実装にかかる時間そのものが、案件全体の期間の中である程度の割合を占めていました。だから、多少要件が曖昧なまま走り出しても、制作にかかる時間の中で帳尻を合わせられる余地が、実はそれなりにあったのだと思います。
でもAIによって「作る」部分の時間がどんどん短縮されていくと、この余地自体がなくなっていきます。
デザインの初稿が数日ではなく数時間で出せるようになったとしたら、案件全体の所要期間のほとんどは、「要件が固まるまでの時間」と「クライアント側の確認・返信にかかる時間」で占められるようになるはずです。
つまり、AIが制作を速くすればするほど、「要件確定のスピード」がボトルネックとして、これまで以上にはっきり見えてくるということです。今までは制作時間の中に紛れて見えにくかった「待ち時間」の存在が、AI時代にはごまかしようがなくなっていく感覚があります。
AIで「作る」が速くなったら万事解決、と思っていた時期もあったんですが、実際はむしろ「決める・揃える」側の遅さの方が目立つようになる気がしています。これは自分にとって、ちょっと意外な発見でした。
「作る速度」より「決める速度」を設計する
ここまでを踏まえると、これからのプロジェクト進行で意識したいのは、「どれだけ速く作れるか」よりも、「どれだけ速く・的確に要件を固められるか」の方なんじゃないかと思っています。
具体的には、案件の最初の段階で、何を・いつまでに・誰が確定させるのかを、なるべく具体的に決めておくことが大事になりそうです。ページ構成や掲載内容、必要な素材、法務的な確認事項など、あとから変更されると手戻りが大きくなる部分ほど、早い段階でFIXしておく。逆に、細かい文言や写真の差し替えのような、あとからでも影響が小さい部分は、柔軟に進めていく、というメリハリが必要な気がしています。

また、希望の納期に対して要件のボリュームが見合わない場合は、その場で無理に合わせようとせず、「この情報量だと、この期間内に確定させていただく必要があります」「範囲を絞って先行公開する形にしましょう」というように、早い段階で選択肢を提示することも大事だと思います。これは冷たい対応ではなく、むしろクライアントに納期・品質・予算のバランスを選んでもらうための、親切な整理だと考えています。
案件が長引かないように、意識しておきたいこと
- 要件確定前に手を動かさない: 情報や素材が揃う前にデザインへ着手すると、あとで手戻りが増えやすい
- 手戻りが大きい部分を先に固める: ページ構成・掲載内容・法務確認など、あとから変更しにくい部分を優先して確定させる
- 納期と要件量のズレは早めに共有する: 希望納期に対して情報が揃っていない場合、選択肢をその場で提示する
- 追加の要望は「別フェーズ」として扱う: 追加要件を無制限に吸収せず、追加の工数・費用として切り分ける
- 止まった場合のクローズ条件を決めておく: 一定期間返信がない場合の扱いを、あらかじめ合意しておく
さいごに
「作る」に時間がかかっていた時代は、多少要件が曖昧でも、制作そのものの時間でなんとなく吸収できていたのかもしれません。でもAIによってその部分がどんどん速くなっていく今、案件が長引くかどうかは、ほとんど「決める速度」で決まっていくんじゃないかと思っています。
手を動かす速さより、案件を一度で終わらせられる状態を早くつくる速さ。
これを、自分の中でも意識していきたいと感じています。


