プロダクトの社内共有で、未来の話ばかりすると「今何ができるのか」が見えなくなる

雄弁に話している人

以前、新しいデジタルプロダクトが社内で発表されたときのことを、最近あらためて振り返る機会がありました。

当時はかなり長い時間をかけて、そのプロダクトが目指す世界観や今後のロードマップ、事業としての可能性について説明されていました。

聞いている側としても、「かなり大きな構想なんだな」ということは伝わってきます。

ただ一方で、自分の中にはずっと、「結局、これは何ができるプロダクトなんだろう?」という感覚が残っていました。

今回は、特定のプロダクトの良し悪しというより、新しいプロダクトを組織へ共有するときの「情報の粒度」について考えてみようと思います。

ビジョンやロードマップは、かなり丁寧に説明されていた

当時の共有内容を例えると、現在地を0.5。次の段階を1.0、その先を2.0、3.0としたロードマップが示され、それを社内の共通言語として使っていくという説明がありました。

1.0では既存業務を効率化し、その先では「人の成長」「業績向上」「関係者をつなぐ」といった、より大きな価値へ広げていく構想です。

市場規模やターゲット、顧客インタビューから見えてきたニーズ、今後追加する機能についても説明されていました。なので、決して「何も考えずに作っていた」という話ではありません。

むしろ、事業戦略としてはかなり多くのことが考えられていたんだと思います。

ただ、自分が当時感じていた違和感は、そこではありませんでした。

かかかず
かかかず

説明の丁寧さと、伝わりやすさは、必ずしも比例しないんだなというのが、当時の率直な感想でした。

「何を目指すか」は分かる。でも「何なのか」が分からない

説明を聞けば聞くほど、「将来的に何を目指すのか」は分かってきます。一方で、「じゃあ、今日このプロダクトを触ったら何ができるのか?」のイメージが、自分にはなかなか湧きませんでした。

UIを触ることもできず、実際の利用シーンを見ることもなく、画面を使ったデモもほとんどない。

代わりに語られるのは、フェーズ0.5、1.0、2.0、3.0といった概念や、抽象度の高いコンセプトワードです。

もちろん、こうした思想は重要だと思います。

ただ、プロダクトをまだ知らない人にとって、思想は具体的な体験に結びついて初めて意味を持つんじゃないかとも感じます。

社内の人が欲しいのは、もっと単純な答えだったのかもしれない

営業であれば、

  • 既存製品と何が違うんですか?
  • お客様のどんな困りごとに刺さるんですか?
  • 30秒で説明すると何と言えばいいですか?

とか。

CSであれば、

  • この機能でお客様の何が楽になるんですか?
  • 今までできなかった何ができるようになるんですか?

そして自分のようなデザイナーなら、

  • どんな利用者が、どんな場面で、どんな体験をするプロダクトなんですか?

ということをまず知りたい。

未来の大きなビジョンよりも先に、「Aさんが今まで3時間かけていた作業が、この画面なら20分で終わります」くらいの説明が一つあるだけで、理解度はかなり変わったんじゃないか?と振り返ってみて思います。

かかかず
かかかず

自分はデザイナーということもあって、特に「画面を見たい」「触ってみたい」という気持ちが強かったです。概念だけ聞いていると、自分の中で勝手にプロダクトを想像するしかなくなるんですよね。

「具体的な情報がない」のではなく、「翻訳されていなかった」

後から資料を見返してみると、実はかなり具体的な情報も存在していました。

顧客インタビューからニーズを抽出し、進捗管理や柔軟な権限設定、一括評価といった具体的な機能も検討されていました。販売についても、まず少人数で提案し、1〜2社の受注実績を作りながらPDCAを回し、確信を得てから本格展開するという計画でした。つまり、具体的な情報そのものが存在しなかったわけではありません。

問題だったとすれば、開発・事業戦略として存在していた情報が、社員一人ひとりが理解できる「体験」や「物語」にまで翻訳されていなかったことなのかもしれません。

かかかず
かかかず

情報が「ある」ことと、情報が「伝わる」ことは、また別の話なんだなと、今振り返るとよく分かります。

プロダクトの未来を語る前に、「いま」を見せる

そのプロダクトは、その後ローンチされました。

ただ、結果として大きな販売実績にはつながらず、短い期間で終了することになりました。

もちろん、その結果と社内キックオフでの説明方法を、直接結びつけることはできません。市場との適合性、営業戦略、価格、既存製品との競合、開発コスト、顧客ニーズなど、プロダクトがうまくいくかどうかには、無数の要因があります。

ただ今振り返ると、「このプロダクトが何なのかを、自分たち自身がまだ簡単に説明できない状態」だったことが、当時の共有の仕方にも少し表れていたように思います。

しかも説明の中でも、プロダクト単体で差別化することの難しさや、最低限の機能を整えたうえで早く次のフェーズへ進みたい、という話が出ていました。

今思えばこれは、かなり重要な問いだった気がします。未来の2.0を語る前に、1.0を「これなら欲しい」と思ってもらえる状態にできていたのか。

そこをもっと強く問い続けても良かったのかもしれません。

デザイナーは、抽象と具体の間をつなぐ役割にもなれる

ここは、自分がデザイナーとして特に感じるところです。

経営や事業企画は、大きな方向性を言葉にします。エンジニアは、それを機能として実装します。

営業は、それを顧客へ届けます。

その間でデザイナーができることの一つが、抽象的な構想を、人が理解できる具体的な体験へ変換することなんじゃないかと思っています。

たとえば、「人の可能性を引き出すプロダクトです」と言われたとき、それは誰の、どんな困りごとを解決するとそうなるのか?を画面やユーザーストーリーに落とす。

「経営と現場をつなぎます」と言われたら、どの画面で、誰と誰の情報が、どうつながるのか?まで具体化する。

デザイナーが担うのは、見た目を綺麗にすることだけではなく、事業側の言葉とユーザー側の現実の間に橋をかけることなのかもしれません。

新しいプロダクトを社内へ共有するときに、意識したいこと

  • 未来より先に現在地を見せる: まず「今できること」を触れる形で伝える
  • UIを見せる: 画面があるだけで、抽象的な説明は一気に具体化する
  • ユーザーストーリーで説明する: 「誰が・いつ・何に困って・どう変わるか」を見せる
  • 既存製品との差を一言で言えるようにする: 社員自身が説明できる状態を作る
  • ロードマップと現在の価値を混ぜない: 将来できることと、今売れるものを分ける
  • 社員の「分からない」を拾う: 理解できないことを、理解不足として片づけない

さいごに

大きなビジョンを語ること自体は、とても大切だと思います。

ただ、新しいプロダクトを浸透させるときに必要なのは、「すごい未来」を説明することだけではなく、「だから、今これが使えるんです」まで落とすことなんだと思います。思想、戦略、ロードマップ。どれも重要です。

でも、そのどれも最終的には、ユーザーが触れる一つの体験に落ちていく。

当時感じていた「なんとなくイメージが湧かない」という違和感は、今振り返ると、抽象と具体の間にまだ距離があったことへの違和感だったのかもしれません。

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